兵庫 食の応援団

「兵庫でつながる日本の味」 日本料理店「玄斎」店主の上野直哉さんからエッセイが届きました。

兵庫でつながる日本の味

 

数年前、宮城のワイナリーで、芋煮を食す機会があった。出汁すら用いずに作られたその素朴な味わいは、蔵王連山を望むブドウ畑というロケーションの下、ワイングラス片手に食べたせいもあって、この上なく心に染み入る素晴らしいものだった。

「東北人って、シャイな人が多くて、自分を語ることが苦手。そこで、里芋の収穫祭にかこつけて、社交の場としてイベント化したものが、いわゆる芋煮会なんです」という話にすぐに納得がいくほど、調理が簡単で、美味しくて、地域の個性も出る。何より「芋煮」という何とも日本人の心をくすぐるワードが、東北の共通項になっている。この楽しさを兵庫でも……と、私に話を持ち掛けてくれたのは、この旅に同行してくれた江戸っ子女子。当時、東京と神戸の往復生活をしていた彼女は、人を繋ぐツールとしての芋煮の魅力に若くして気づき、ひと月も経たぬうちに、自分の思いを具体化させた。

「兵庫版の芋煮を作ってもらえませんか」。

料理人魂に火がつく言葉に、二つ返事で初めて作った兵庫版芋煮。材料には、篠山の天内芋や日高の赤崎ごぼう、丹波黒の枝豆に、朝来の岩津ねぎ、そして神戸ポーク等を用い、養父の大徳醤油で煮込む。今回は、昆布と鰹節の出汁を使って、関西好みの味わいに。

関東寄りだった宮城のそれとは明らかに違うけれど、あの日のブドウ畑の記憶が蘇ってくる。これでよし。あとは主催者の彼女に任せよう。

かくして、イベント当日。仕事終わりに訪れた南京町はずれの小さなカフェには、若者たちが集っていた。大鍋から取り分けた一杯の芋煮を通して、兵庫の食材の豊かさや風土を知り、初めて此処で出会う人たちが繋がる光景。和やかな会話が生まれ、笑顔がこぼれる。この震えるような喜びを、熱い煮汁と共に躰に取り込む。さて、宮城のワイン、兵庫の酒、何杯飲んだだろう。世代を超えて結ばれた仲間と交わす食談義は、いよいよ鍋に締めの素麺を投入する発想に至った。大急ぎで、「揖保乃糸」を求めて夜の街へと買いに走ってくれた(決してシャイとかではない)関西男子よ、ご馳走様。

 

日本料理店「玄斎」店主 上野直哉