兵庫 食の応援団

「まだ見ぬ美味を求めて」 日本料理店「玄斎」店主の上野直哉さんからエッセイが届きました。

まだ見ぬ美味を求めて

 

先日、七夕の夜ならではの日本酒の会を開催した。単に酒をメインに据えた七夕イベントというだけではなく、酒米の最高峰「山田錦」を生み出す「日本酒の聖地」である兵庫の現在を、とりわけ県内の方に紹介できる内容にしたいと思い、日本酒も料理の食材も兵庫県産に絞り込んだ。 神戸ビーフや明石蛸といった誰もが知るお国自慢の食材は数あれど、今回は(同じ兵庫県だが)多くの神戸人がまだ見ぬ優れた県産食材で固めてみる。
当初、献立にはもっと悩むだろうと考えていた。確かに私個人が元々知っているものだけを辿るのなら、内容は大かた想像に足りるが、県内徘徊の奏功か、あちこちに、その地を深く知り尽くした頼れる先輩方や知人がいてくれることで、ローカルな情報、それも最新の小さな情報が入ってくる。そうして、気が付けばクルマを走らせ、現地につけば、また新しい情報を得て寄り道してと、数珠つなぎで必ず新たな出会いがあってありがたい。
とりあえず、A4用紙に、この時季考えられる兵庫食材を書いてみる。左半分が黒く埋まった。それを元に、現地と連絡を取ってみて、今年はシーズンがずれていたり、不作・不漁だったりもするが、新たな情報を参考に、差し替えていくと、献立が急に現実味を帯びてくる。例えば、揖保川の鮎を求め、宍粟市の農家さんに電話すると、解禁日はまだ少し先だそう。 そこで、以前お会いした時の、天然鹿肉の話を思い出して尋ねてみたら、「ご近所が仕留て、昨日解体したのがあるから送ってもらうよ。」と。
質の良い夏鹿は、淡路玉葱のすりおろしで一晩マリネしてから低温調理し、使った玉葱を、丹波の黒さや大納言小豆と一緒に煮込んだ味噌をかけた。本来お目当てだった鮎は、姫路の料理人兼鮎釣り名人に連絡。こちらも本当に運良く、明日友釣りに出かける予定だと。 播州・市川の上流にある越智川から、最高の鮎が届いた。このほか、但馬・十戸の神鍋清流サーモン、加西のハリマ王にんにく、山田錦の藁だけを食べて育つという黒田庄和牛等々名品が揃い、ほどなく献立は完成した。
かくして、兵庫各地6蔵の特徴を映し出した6種の酒と共に、兵庫五国の食の豊かさを味わっていただくことが出来た。
私も小さな短冊に願いを一筆。
「春夏秋冬、これからも、
まだ見ぬ美味しい出会いがありますように。」

 

上野直哉